Never Stop My Curiosity

知的好奇心の赴くままに。

2014年度もUmano続けます


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ぼくの中で英語学習の最強アプリ- Umano

日頃の英語の勉強にUmanoというアプリが活躍してくれている。

BBC, CNN, WSJ, Forbes, Lifehackerなど多様な英語サイトの面白い記事をピックアップしてネイティブのナレーターがすべて音読してくれる。

(ただし、科学的な専門用語は間違えた発音の時もあるので少し注意)


英語の勉強になるだけでなく、内容が面白いので海外の面白いニュースを手に入れることができるメリットもある。


ぼくは時間がない時は聞き流すだけにしてしまうが、余裕があるときのUmanoを用いたお勧め勉強法は以下の6ステップだ。

  1. 2-3回聞き流す
  2. スクリプトを見ながら聞き直して言っていることを確認
  3. 2-3回丁寧に聞き直す
  4. 2倍速で聞いてみる
  5. 普通の速度で最終確認
  6. 数日後に聞いてみる
3-5はサボっても6をやるのとやらないのでは定着度が随分違うような気がする。

ぼくはビジネスシーンで話す事にも役立てたいので、Umanoの中でもサイエンスネタとか、それこそDiabetesとかDrugとかで検索をかけて引っかかってきた記事とかを聞いている。

プレミアム会員になる必要性はほとんどなし。

記事の内容に多様性があるので、英語が必要なすべてのビジネスパーソンにお勧めだ。

Umano : ニュース朗読

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2013年に最も興奮した論文

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betatrophinの発見

2013年度も糖尿病など代謝疾患関連の論文を中心に読んできたが、1番すげ〜!ってなった論文はHarvardのMelton教授のラボからCellに投稿されたbetatrophinの論文。

beta=β細胞、trophin=促進する、の名前にふさわしい、強力に膵β細胞を増殖させる分子だ。

このbetatrophin発見の鍵はマウスにS961というインスリン受容体アンタゴニストを投与して人工的に膵β細胞が増殖するモデルを作ったことだ。

このマウスのマイクロアレイによってbetatrophinが発見された。

肥満などでもβ細胞の増殖は起こるが、強力にβ細胞の増殖を促進させたモデルマウスを使ったのが著者のすごいところだろう。

このbetatrophinは何がすごいかというと、β細胞増殖作用のある代表であるGLP-1なんかと比較してもその作用強度が桁違いなところだ。

複製しているβ細胞が4倍になる!とかの論文は時々あるが、betatrophinを肝臓に発現させたマウスではコントロールの数十倍!


課題はメカニズムとヒトβ細胞でも同じことが起こるか

Cellの論文ではbetatrophinの発見がメインであり機能解析としては組織の発現(肝臓と脂肪に高発現)と分泌タンパクであることぐらい。

betatrophinがどんなメカニズムでβ細胞の増殖を促進せているのか、これからの研究が楽しみだ。


で、薬になるのか

創薬してる身としては、創薬ターゲットになるか、ということになるが、おそらくすでに始められているだろう、と思われる。

EvotecとMelton教授のラボが2011年からCureBetaという名前で共同研究をしているし、このプログラムが2012年にJanssenとライセンスが結ばれている。

Cellでの発表のずいぶん前から研究が進められている可能性が高い。

課題はやっぱり細胞増殖を促進するということで癌化など、正常でない増殖が起こらないか確かめないといけないことだろう。

2014年はβ細胞の生物学がbetatrophinという分子の発見で加速化するんじゃないかな、と思う。

β細胞を増やして糖尿病の完治ができたら。

これは本当に研究者の夢だけど、実現に一歩近づいた大発見でした。

経口インスリンupdate

経口インスリンを研究、開発している会社はNovoとOramedだけではなかった

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年末に見つけたこの記事。


以前書いたNovoとOramedだけでなく、Google venturesからも投資を受けたRani TherapeuticsBMSと提携しているインドの製薬メーカーBioconも研究を進めているようだ。

Rani TherapeuticsのHPを見てみると、この会社はインスリンのみでなく、抗体なんかも経口薬にしようというすごい高い目標を掲げていてる会社らしい。
ステージはプレクリカル、つまり動実験の段階らしい。


もしこの研究がうまくいけば、協和発酵のポテリジェント的に技術をライセンスするような戦略が取れそうだ。
もちろんポテリジェントと比較すると癌に限らないということで応用範囲が広くなることは間違いない。



そして驚いたのがBiocon。
Oral Insulin Phase2ってなってる!
この会社はインド最大のバイオファーマらしく、すでにインスリンのバイオシミラーも製品化され、パイプラインにもある模様。
インドといえば第一三共が買収したランバクシーのゴタゴタとか特許が成立しにくい国政でメガファーマが困っているとか、あまり良いイメージがないが、研究はこんなにも進んでいるのか、と驚かされた。


こういう夢の薬の研究に日本の製薬メーカーやバイオベンチャーの名前がなくて、インドの会社の名前があるというの は少し悲しい気分だ。

でも4社も手がけているということは1つぐらいモノになるような気もする。

また続報があれば報告します!

【書評】最後の授業 ぼくの命があるうちに

死を宣告されても前向きに生きる父親に感動!


最後の授業 ぼくの命があるうちに (RHブックス・プラス)


コンピューターサイエンスの世界的権威であったランディ•パウシュさんは膵臓癌が転移し、余命数ヶ月となった。

本書は死ぬ前に自分の小さな子供達に自分の軌跡とこれからの生き方を教えるために書かれた本だ。

子供のいる父親はもちろん、前向きに生きる力がほしい人が読むのにぴったりな本だ。

ランディさんは子供の頃からの夢をほとんど叶えてきた。
彼の子供の頃の夢は以下の6つだ。
  • 無重力体験をする
  • NFLでプレーする
  • ワールドブック百科事典を執筆する
  • ぬいぐるみを勝ち取る
  • ディズニーのイマジニアとなる
職業柄叶えることができた夢、百科事典の執筆などもあるけれど、夢が叶えられるチャンスが少しでもあれば、どんな苦労もしてでも、規則をかえてでもチャレンジする行動力は彼の最もすぐれた能力だ。

壁を乗り越える時に(奥さんをゲットするときにも使った笑)ランディさんが何度も言っている言葉が印象的だった。
この言葉を忘れないだけでも本書を読む価値は充分にある。
レンガの壁がそこにあるのには、理由がある。何かをどんなに真剣に望んでいるのか、証明するチャンスを与えているのだ。


常に前向きで楽観的なパウシュさんが本書に残してくれた人生観はいくつも共感できる。

子供に20年かけて教えるべきことを数ヶ月間という期間で凝縮させた本書は父親としての振る舞いもお手本になりそうだ。

ぼくが気に入った言葉は以下のものだ。

  • 時間をお金と同じように明確に管理する- 手すりの裏側をどんなに磨いても意味はない
  • 計画はいつでも変えられるが、計画がなければ変えることもできない- リストを作ると、人生を細かいステップに分けて考えやすい
  • 代理を頼む- 一歳半のクロエちゃん自身に哺乳瓶を持たせてミルクを飲ませると、ランディさんもクロエちゃんも満足できる
  • 息抜きをする- 自分に残された時間は思っていたより少ないと思う日が来るかもしれない
  • ときには降参する- つまらない根比べをすていられるほど、人生は長くない
  • 不満を口にしない- 不満を言っても何もはじまらない。時間もエネルギーも限られている。不満を言うことに時間を費やすよりも、目標を達成することを考えたいじゃないか
  • 何を言ったかできるなく、何をやったかに注目する- 男の品定めはこれでオーケー
  • ひたむきに取り組む- 一生懸命やることは銀行口座に複利がつくようなもの
  • 準備を怠らない- 楽観主義のランディさんでも何か決断を下す時は最悪のシナリオを想像する。(オオカミに食べられるかもしれない可能性)
  • とにかく頼んでみる- コンピューターサイエンスの世界的権威の先生にアポをとったことが先生とのコネクションや奥さんとの出会いにつながった
タイトルにある最後の授業はランディさんが、カーネギーメロン大学で最後の講義とも話がつながっている。
この講義はYouTubeなどでも見ることは可能だ。
すごい視聴数を記録したらしい。
比較的平易な英語なので、時間がある方はぜひ見てほしい。


最後の授業 ぼくの命があるうちに (RHブックス・プラス)

最後の授業 ぼくの命があるうちに (RHブックス・プラス)

まさかのfasiglifam開発中止

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fasiglifam開発中止 

 

武田薬品工業GPR40 agonist fasiglifam (TAK-875)GPR40 agonistとしてfirst in classが約束されているかのような薬剤であった。

 

 

Phase2までは非常にキレのある薬効と高い安全性が示されていたが、まさかの肝臓における安全性の懸念から開発中止。

 

研究にさかのぼると、ぼくがまだ修士の学生だった2003年に武田がNatureGPR40の論文を発表し、その後もKOマウス、TGマウス等の発表を含め、この標的について常にリードしてきただけに残念だ。

2013年度のADA(アメリカ糖尿病学会)でもfasiglifampartialPAMであるという発表をして皆驚いていた。

 

一時期はGPR40KOマウスがインスリン抵抗性改善作用を示すという論文が出てGPR40agonistantagonistか、という議論もあり、実際に特許等を見るとantagonistを志向していた会社もあったようだ。

 

武田にとってはとても愛着のある製品になる予定であっただろう。GPCRのクローニングから機能解析、そしてfirst in classTAK-875の創生、しかも時期の主力製品としての期待。

研究者、開発の方々にとってはこんなに良いストーリーはなかなかない。

 

fasiglifamは本当に残念だったが、気になる点はfirst in classそしてそれに続くGPR40 agonistは何か、というところだ。

 

現在開示されている情報を見るとJTJTT-851という化合物が国内、海外ともにPhase2ということでこれが先行しているのかもしれない。論文や特許を見るとMerckLillyなどメガファーマも手掛けているようなので、これからはDPP4SGLT2などに次ぐ熾烈な競争があるのかもしれない。

 

一つ気になるのは武田のPipelinefasiglifamに次ぐback upがまだないことだ。Phase1までは入っているのだろうか。

 

一番面白い展開はJTT-851を武田がライセンスインするとか。

 

それはないかなぁ。

 

 

 

【書評】やるべきことが見えてくる研究者の仕事術(島岡 要)

 

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ビジネス書から学んだエッセンスがギッシリ!

 

本書は実験医学で島岡さんが連載されていた「研究者のためのプロフェッショナル根性論」とオンライン・マテリアルに加筆・修正を加えてまとめた本だ。

 

実験医学では何度か連載を見たことがあったが、本になってまとまっているのを読んでみると、著者の考え方、研究者として目指す像がクリアになる

 

著者は多くのビジネス書を読み、それを研究者であればどのように考え行動するべきか、という視点で自分の中で咀嚼する能力が高い。

そのような観点で書かれた本にはあまり出会ったことがなく、類を見ない本といえるだろう。

 

羊土社から出版ということで少し値が張る(2800円)が、特に若い研究者は人生の指針になるかもしれない良書だ。

 

 

 

研究者として仕事をすべき10の原則

 

その1で書かれている“研究者として仕事をすべき10の原則”に研究者として歩むべき指針が大雑把に書かれており、その後の章に詳細な説明がある。

 

この10の原則は順番も大事であり、今自分がどこにいて、さらにどのように歩むべきか、振り返るべきかを確認することができる。

 

ステップ1:興味を持てる特異分野を発見する(Discovery and interest)

ステップ2:最初は自分で学ぶ(Early self-teaching)

ステップ3:師匠を持つ(Formal education)

ステップ4:現場で恥をかく(Humiliation)

ステップ5:失敗を恐れつつも、果敢に挑戦する(Serious attempts at professional improvement)

ステップ6:自分の世界で一番になり成功体験を得る(The beating local rivals)

ステップ7:研究者として自信をつける(Youthful arrogance)

ステップ8:井の中の蛙であったことに気付き、打ちのめされる(Reality check and crashing back down to Earth)

ステップ9:すべてを知ることはできないことを理解する(Realizing that you’ll never come close to knowing everything)

ステップ10:それでも、自分の新しい見識を常に世に問うていく(謙虚であるが臆病ではない)

 

 

 

著者がビジネス書から得た名言

 

この本の特徴は日本だけでなく、世界で有名な名著から多くの名言が載せられている。

 

日本のビジネスパーソンはよく働きよく勉強し35歳まではどんどん成長して、世界的にみてもトップクラスの能力を身につけていると考えられます。しかし、35歳から50歳までの15年で伸びが急速に鈍くなり、他の国のビジネスパーソンに抜かれてしまうとのこと。企業では35歳以降はほぼ全員が待ちの姿勢になり、大きな失敗をせずに辛抱して10から15年待つという厳しい持久戦を生き抜く「内向き」の能力が試されることになった結果であると考えられます。(「質問する力」 大前研一)

 

自分のキャパシティーを見極める-Dipの途中でquitしたくなったら本当にやめることを検討する前に次の3つのことを確かめようとSethは提唱します。

 

1.パニックになっていないか:冷静に判断することが大切

 

2.アプローチは正しいか:自分の力だけでは突き抜けることのできない壁にぶつかっているのなら、なにかレベレッジの方法はないか考えよう。

 

3.パラメーターを変えてみる:Dipにいる(努力しているのに、全く進歩がない)と感じるのは不適切なパラメーターで自分の進歩を測っているためでは?まったく別のパラメーターを試してみよう。

 

 

 

本書ではSeth Godinの本の内容が多く出てくる。the dipは短い本のようなので、原著を買う予定だ。

 

研究者はブログをはじめるべき

 

著者はブログ「ハーバード大学医学部留学・独立日記」を連載していたが、ブログは研究者にとって論文に並ぶ「名刺戦略」と「自己啓発戦略」になるという。

「名刺戦略」として用いるか、ということは実名を公表するかという問題もあり、万人がこのようには使わないかもしれないが「自己啓発戦略」としては用いることができるだろう。

研究者は最新の論文を読むばかりのインプットに偏りがちだ。

しかしながら、得た「知識」を「知恵」に昇華するにはアウトプットが必須であり、人目にふれて磨かれる「ブログ」は良いツールだろう。

論文や学会発表は日頃の成果を発表する場としては非常に成長させてくれる場であるが、その頻度は低い。ブログを日頃の「知的生産のための装置」として利用することで研究者として成長したい。

 

研究者としての生き方を考えさせられたとともに、はじめたばかりのブログをサボらず続けよう、とする気にしてくれた一冊だった。

 

 

やるべきことが見えてくる研究者の仕事術―プロフェッショナル根性論

やるべきことが見えてくる研究者の仕事術―プロフェッショナル根性論

 

 

 

AdipoR agonistは糖尿病に有効か?

 

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 AdipoRon

先日、東大の門脇先生のグループからadiponectin受容体(AdipoR1, R2)を活性化する化合物(AdipoRon)が発表され、Nature掲載された。さすが日本を代表とするラボである。AMPK, PPARαを介した薬効であり、両シグナルがKOマウスできれいに切れる。ただし全身的な血糖降下作用の強度としてはadiponectinそしてAdipoRonともにそれほど強くない印象である。 

Novo Nordiskからの論文

今年かなりびっくりした論文がインスリン製剤、そして糖尿病研究で世界を牽引するNovo Nordiskから発表された。それは門脇研を否定するような論文であり、一言で言うとadiponectinには以前から言われている免疫調節作用はあるものの、糖尿病改善作用はありませんよ、という論文である。

 

インスリンやGLP-1アナログを作っている会社だけあって、そのタンパクに対する研究の信頼性はアカデミアの非ではない。Endotoxinの混入まできちんとデータで示しており、Adiponectin投与に血糖降下作用が確認できている論文はEndotoxinの混入が原因かもしれないというDiscussionをしている。

 

そして、ぼくを一番納得させたのは以下の一文である。

 

This conclusion is supported to some extent by the fact that numerous pharmaceutical and biotech companies (e.g. Protemix, Merck KGaA (Merck Serono), Maxygen) which have worked on adiponectin over the past decade, have been unable to progress their research projects beyond the pre-clinical stages.

 

この結論はadiponectinを過去10年研究してきた多数の製薬メーカーやバイオテック(Protemix, Merck KgaA, Maxygen)が非臨床段階からプロジェクトを先に進めることができなかった結論をある程度支持するものである。


今後の動向に注目

 AdipoRonが日本のアカデミア発の薬剤として臨床試験に入り、世界的に売れる糖尿病治療薬になってほしいと願う気持ちはもちろんある。まずはAdipoRonやその他AdipoR活性化剤が臨床に進むに値する薬効を有するか、動態や毒性に問題がなく臨床試験までたどり着けるかが注目である。そしてうまく進んだ場合、欧米ではPhase3で心血管イベントの有無まで求められる高額な臨床試験費用はどのように調達するのか、ビジネス面でも興味深い。今後の進展が楽しみだ。  

書評-炭素文明論「元素の王者」が歴史を動かす 佐藤 健太郎

 

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有機化学って何?の方から製薬メーカーケミストまで楽しめる一冊!

 

今年読んだ科学系の本では“ヒトはなぜ太るのか?そしてどうすればいいか-ゲーリー・トーベス”が断トツだな、と思っていたが、今回紹介する炭素文明論は全く趣旨が異なるものの、年間ベストに選びたくなるほど面白く読めた。

 

著者の佐藤健太郎さんは元製薬メーカーの研究者で、ケミストの方であればかなりなじみ深い方、らしい(ぼくは薬理出身なので、名前を知ってたり、時々Twitterを見るぐらい)。

 

ぼくも医薬品クライシスは購入して読んだし、創薬科学入門は立ち読みで充分と思ってしまい、ふ~ん、文章が少し上手なケミスト出身の方か、ぐらいに思っていた(本当に著者には申し訳ない)。

 

ところが、本書はこれまでの作品とは比べ物にならないぐらい壮大な話で著者があとがきで書いているように“化学に対する関心の低さを、少しでも改善したい”という願いは叶うのではないかいう意気込みが感じられる。

 

話はグルコース一つとっても大きな歴史の中でのグルコースが万能薬として考えられていた時代から我々が現在良く口にする人口甘味料まで“歴史的に”話が及ぶ。そしてその中で面白いトリビアがちりばめられている。

 

スクラロース1967年に初めて合成された。これを作った研究員はまだ英語に不慣れで、教授がその化合物をテスト(test)してくれと指示したのを味見(taste)と聞き違え、舐めてみたら驚くほど無害であった”

 

最近は甘みの受容体、いわゆる”taste receptor”が発見されて、この受容体が実は舌のみでなく腸管などにまで発現していて何してんの?というのが一つの生物学的なトピックスになっているが、著者によると、甘味を感じされる物質は構造的に似ても似つかない化合物ばかりだという。taste receptorなんかでは説明できない甘味のシグナルがあるのであろう。

 

その他、日本人になじみ深いうま味成分グルタミン酸、ニコチン、カフェイン、エタノールまですべての章に面白い話が及ぶ。

 

すごい科学者だな、と感じたのは9章のニトロで登場したハーバー=ボッシュ法でお馴染のノーベル賞受賞者、ハーバーさん。

 

世界の食糧危機を救った化学反応を見つけた後に、この化学反応でできるアンモニアが戦争の爆薬に必要な硝酸を作ることに使われる。熱烈な愛国者であったハーバーは数々の毒ガスを開発し、使用法を指揮することまでした。妻のクララはこの非人道的な行為に抗議して自殺する。ハーバーはそれでも毒ガスの開発から手を引くことはなかった。ハーバーはユダヤ人であったが、結局自身で発見した毒ガスが最後にはアウシュヴィッツの強制収容所で用いられ、彼の親族を含む600万人のユダヤ人の命を奪うことになる。なんて複雑で残酷な人生を送った化学者だろうか。

 

本書の最後は炭素が握る人類の未来ということで、カーボンナノチューブや将来へのエネルギー革命に向けた期待まで書かれている。個人的にフルカーボンのロードバイクを愛する一人として、以下の数値は、やっぱりカーボン最高!となる。

 

“欠陥のないカーボンナノチューブを作れたら、1センチのロープで1200トンの重量を釣りあげられる計算になるという”

 

 もちろん、エネルギーのところも良く耳にするシェールガスメタンハイドレートといったトピックまで明快に書かれており、素人にもへ~、そういうことだったのか、と理解しやすい内容だ。

 

まとまりのない書評になってしまったが、最初に述べたとおり、有機化学って何?の超文系の方から製薬メーカーケミストまで楽しめる一冊ということで、万人におすすめできる一冊である。著者の専門外の歴史を炭素の視点で描くという発想と、ここまで調査しつくした完遂能力に脱帽であった。有機化学バンザイ!

 

炭素文明論 「元素の王者」が歴史を動かす (新潮選書)

炭素文明論 「元素の王者」が歴史を動かす (新潮選書)

 

 

服薬中止後に何年にも渡って体内に残る薬

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ブロックバスター候補Anacetrapib

 

AnacetrapibはMerckが現在Phase3で臨床試験中のCETP ihibitorというカテゴリーに属する薬である。

善玉コレステロールであるHDLコレステロール濃度を上げ、悪玉コレステロールと言われるLDLコレステロールを減らす、究極の薬になる可能性を秘めている新薬候補品と言われる。

コレステロール濃度がコントロールされないと結局は脳卒中とか、心疾患とかぽっくりと死んでしまう、いわゆる心血管イベントを起こしやすくなる。

これを防ごうという薬だ。

仮説通りいけば、売上年間何千億円みたいな新薬(ブロックバスター)になる可能性を秘めている。

このAnacetrapibの臨床試験に参加した患者からびっくりすることがわかった

 

この論文では、Anacetrapibの服薬終了12週間後においても定常状態の谷間の血中濃度(Ctrough)の40%近い血中濃度が見つかり、2.5-4年後でも少しは血中で検出されるというお話。
この手の生活習慣病関連の薬は何とか血中に薬を長く入れようと、普通は1日1回で間に合う薬を作ります。もちろん、2-3日たてば血中からなくなってしまうのが普通で、数日はもとより数年!単位で血中に残る薬なんて、作りたくっても普通はできません。

Anacetrapibの消失の遅さの原因は脂肪組織に取り込まれやすいこと、そして臨床試験初期に発見できなかったということで、服薬期間にも依存するようです。
もしAnacetrapibが安全で心血管イベントを抑制する効果が確認されれば、1日に1回よりも少なく投与できる可能性もあります。

今のところは服薬を中止した人にも大きな副作用が認められていないことから、大きな問題にもならないかもしれません。

 

問題はCETP inhibitorは本当に安全か

 

このCETP inhibitorで先行していたPfizerのTracetrapibはものすごい大規模の臨床試験をして、心血管イベントをむしろ増やしてしまうことが明らかとなっています。

血圧をほんのり上げる副作用のせいだ、という方もいるみたいですが、最近の専門家のメジャーな意見はHDLにも善玉と悪玉がいて、CETP inhibitorで増えるのは悪玉の方じゃね?ということ。
AnacetrapibはLillyのEvacetrapibと並んで最強に強いCETP inhibitorと言われています。
もしAnacetrapibでも心血管イベントが増えちゃいました、なんて結果が出たものならどうなるのだろう。

臨床試験で服薬していた患者さんたちは体内に何年も残ることが分かっているわけなので、アメリカであれば裁判沙汰になってもおかしくないですね。

 

経口インスリン薬が2010年代に発売!?

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http://uk.reuters.com/article/2013/10/09/us-novonordisk-oramed-oralinsulin-idUKBRE99804N20131009

インスリンを世界で一番売っている会社であるNovo Nordisk(以下Novo)とイスラエルの小さなバイオベンチャーOramedが経口インスリン薬(oral insulin)を開発中というニュース。

OramedはORMD-0801という開発コードでPhase IIb患者を使ったやや規模の大きめの試験)を行っているらしい。

一方でノNovoはというと、多数のラインナップがPhase I(少数の健常人で体内の動態などを見る試験)に入っている模様。

しかも開発番号LAI287 (NN1436)を見てみると、

 

"A long-acting basal insulin analogue with potential for onceweekly dosing."

週に一回の(経口)インスリンアナログ製剤

 

こんなものまで開発中という、まさに注射剤で培ったノウハウを経口インスリンにも生かしているのだろう。
若干Oramedに遅れているものの、臨床開発のスピードは速いだろうし、インスリンの開発をどこまでも熟知しているので、追いつけるだろう。

インスリンといえば、一般のイメージとしては、かなり糖尿病が悪化してから使うもの、と思うかもしれない。
しかし、今のアメリカ/ヨーロッパの糖尿病学会(ADA/EASD)の共同声明によると、メトホルミンという欧米ではとりあえず使う薬の次には患者に合わせて売り出し中のDPPIV阻害薬やSU剤などとともにインスリンも使っていこう、となっている。

この概念はもちろん日本の専門医にも共有化されている。
もはや悪化しすぎる前に使う薬となっているのだ。

そしてインスリン製剤は注射の針の進歩などもあり、かなり患者の負担は減ってきている。
ただし、どうしてもインスリンを皮下に打つといきなり体全身に回ってしまう。
膵臓のβ細胞から分泌されたインスリンは重要な標的臓器の一つである肝臓を通ってから全身に回る。
こうなることで、インスリンの副作用である低血糖などが起こりにくくなっている。
経口インスリンのメリットはここで、飲むとまず薬は吸収されると肝臓を通って全身にいく、つまり生理的にインスリンが作用するのだ。

経口インスリンは針の痛さのみでなく、副作用も軽減できる、まさに究極の糖尿病治療薬になる可能性を秘めている。


インスリンといえば、NovoとLillyとSanofiの3社が独占している市場。
もしOramedがうまく行ったとするとLillyが買うか、Sanofiが買うか。
それともジャニュビアで一気に市場をとったMerckや買収がうまいPfizerが来るか。
BloombergのニュースによればNovoも買う可能性があるという憶測も。

Novoが買うとインスリン市場はNovoの独占状態か。

そしてNovoのパイプラインをよ~く見てみると、びっくりするものが。
OG217GT (NN9928):Type 2 diabetes, Phase I
"A long-acting oral GLP-1 analogue intended as a tablet treatment."

なんと、これも皮下でないとならないGLP-1アナログまで経口剤にしちゃおうと。
これは当たり前で、ノボのインスリン以外の売り上げの多くをGLP-1アナログのビクトーザで稼いでいるのだ。

タンパク(ペプチド)を経口にする、という技術がどこまで進んでいるのかわかんないが、将来的には抗体医薬なんかまで経口の時代が来るのかな。
まさに21世紀のお薬という感じ。