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betatrophinはヒトβ細胞を増殖させないのか?

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昨年発表されたハーバードのMelton教授のラボで発見された、膵β細胞の複製を強力に活性化するホルモンであるbetatrophin(ベータトロフィン)

このbetatrophinがヒトで有効であるかを検証した論文がDiabetesで報告された。
この論文、実験方法がとてもクール。

www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/24353178/


まず、膵移植のことを考えて、GVHDの起こらないNOD-Scidマウスを用いている。


このマウスにインスリン受容体アンタゴニストのS961をosmotic pompで持続的に注入すると、肝臓のbetatrophin mRNAが約4倍に増え、Ki67陽性β細胞(複製してる細胞)は20倍にも増え、Cellの論文の再現がおおよそ確認された。


ここからが素晴らしい実験だ。

右腎にマウス膵島を、左腎にヒト膵島を移植した。

そのマウスにS961を投与すると、右腎に移植されたマウス膵島ではβ細胞の増殖が確認されたが、左腎臓に移植されたヒト膵島では、4歳の方のサンプルでさえ増殖が確認されなかった。

マウスでは12ヶ月齢、かなりおっさんマウス由来の膵島でさえも反応した。


この結果はもしかするとbetatrophinはマウスのβ細胞は増やすがヒトのは増やさないかもしれないことを示唆する結果となった。


しかし忘れてはいけないことは、betatrophinはどうやってβ細胞を増やしているのか全くそのメカニズムがブラックボックスであるということだ。


例えばbetatrophinがある特定の受容体に結合して薬効を示すとすると、単純にヒトbetatrophinの受容体が種差の関係でマウスのbetatrophinに反応しなかっただけかもしれない。


この結果だけではbetatrophinがヒトでは効かないよ、と結論を出すのは危険だが、その可能性もあることは示唆された。


ちなみにヒト膵島は日本ではなかなか手に入らないもので、日本ではこの種の実験をすることはかなり困難だ。


これからどんどんでてくるであろう、betatrophin関連の論文、特にヒト膵島を用いた実験に注目だ。