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AdipoR agonistは糖尿病に有効か?

 

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 AdipoRon

先日、東大の門脇先生のグループからadiponectin受容体(AdipoR1, R2)を活性化する化合物(AdipoRon)が発表され、Nature掲載された。さすが日本を代表とするラボである。AMPK, PPARαを介した薬効であり、両シグナルがKOマウスできれいに切れる。ただし全身的な血糖降下作用の強度としてはadiponectinそしてAdipoRonともにそれほど強くない印象である。 

Novo Nordiskからの論文

今年かなりびっくりした論文がインスリン製剤、そして糖尿病研究で世界を牽引するNovo Nordiskから発表された。それは門脇研を否定するような論文であり、一言で言うとadiponectinには以前から言われている免疫調節作用はあるものの、糖尿病改善作用はありませんよ、という論文である。

 

インスリンやGLP-1アナログを作っている会社だけあって、そのタンパクに対する研究の信頼性はアカデミアの非ではない。Endotoxinの混入まできちんとデータで示しており、Adiponectin投与に血糖降下作用が確認できている論文はEndotoxinの混入が原因かもしれないというDiscussionをしている。

 

そして、ぼくを一番納得させたのは以下の一文である。

 

This conclusion is supported to some extent by the fact that numerous pharmaceutical and biotech companies (e.g. Protemix, Merck KGaA (Merck Serono), Maxygen) which have worked on adiponectin over the past decade, have been unable to progress their research projects beyond the pre-clinical stages.

 

この結論はadiponectinを過去10年研究してきた多数の製薬メーカーやバイオテック(Protemix, Merck KgaA, Maxygen)が非臨床段階からプロジェクトを先に進めることができなかった結論をある程度支持するものである。


今後の動向に注目

 AdipoRonが日本のアカデミア発の薬剤として臨床試験に入り、世界的に売れる糖尿病治療薬になってほしいと願う気持ちはもちろんある。まずはAdipoRonやその他AdipoR活性化剤が臨床に進むに値する薬効を有するか、動態や毒性に問題がなく臨床試験までたどり着けるかが注目である。そしてうまく進んだ場合、欧米ではPhase3で心血管イベントの有無まで求められる高額な臨床試験費用はどのように調達するのか、ビジネス面でも興味深い。今後の進展が楽しみだ。